匿名

日記

五月の雨の次の日

梅雨のすこし手前。雨の降った次の日のの夕方は、風が湿って生ぬるくて、陽が落ちるのが遅くて、ひとの活動とわたしの生活の時間がずれるのが面白い。

みんなが働いている時間に、わたしは1日を終える支度を始める。いつもは帰宅後くたくたの体で手をつけるような、洗濯物を畳むのとか、犬の散歩とか。まだ外が明るいからなのか、すれ違うひとは皆余裕がある顔つきで、犬に微笑みかけわたしに挨拶してそのままの表情で歩いていく。わたしは誇らしげな顔で犬を連れて街を歩く。犬も誇らしげな顔でわたしを連れる。

緑道には、しおしおの躑躅の横でわたしみたいに誇らしげな紫陽花が咲いている。真緑の道。蚊柱が立つ。わたしが顔を顰める。季節の終わりの躑躅みたいに。家に帰る。

社会がまわっているその瞬間に、落ちかけの陽の光だけを光源に、わたしは1人食卓で映画を観る。嘘。足元の犬と2人で。全部の部屋の窓を開け放すと風が通って気持ち良い。甘くてしゅわしゅわした飲み物に味の薄いチーズとほんのり甘いクラッカーを取り合わせて、良い感じに適当に好きな皿に盛り付けて、テレビの音量を上げて。薄暗いリビングがわたしのシアターになる。世界がわたしのものになる。まだまだ夜は長い。ずっと夜のままでいいのだ。