匿名

日記

いつだかの梅雨の日の憂鬱

恋や他人に期待するのをやめてから、人生は穏やかになったが、ほんの少しだけ日々がつまらなくなったような気がする。優しく可愛い恋人と、湿っぽい世界から切り離されたような二人きりの部屋と、嘘みたいな明るさの蛍光灯と、いつも大差ない他愛のない会話。刺激もないが苦しみもない。平均値の幸福度はこれまでよりずっと高いような気もする。大人になるというのは、こういうことなのだろうか。こういうことなのかもしれないな。

最近の人生の煌めきは、勉強でも仕事でも恋愛でも友達付き合いでもなく、犬と歩く夕暮れの風の中や、一人歩く夜の月光の中にある。風が木々や草花を揺らすのが美しい。葉の上の露を振り落とすのが興味深い。東京の夜空は暗いから、ぽやっとまあるい月はなんとも孤独に見える。アルコールよりもカフェインで昂っているときの方が、世界は美しく見える気がする。空の色の移り変わりや雲の動きなんかが、いつもよりもはっきりと心をくすぐるのだ。

自分のためだけに料理をするのも、案外悪くないということに気がついた。誰にも気兼ねしないで、思いっきり野菜をたくさん入れたスープを作ったり、サラダにナッツを乗せたり、ナスやズッキーニのグリルに大量のピンクソルトとブラックペッパーをかけたりする。ソルトミルやペッパーミルガリガリするあの感触が好き。

心の不調はたいてい体の不調が原因だ。たいていのことはどうとでもなるから、負の方向に心を動かすことにはあまり意味がない。出来るだけ体が楽であるように生きれば、自然と心も楽になっていくものなんだと、思う。

 

ああ、それでも、何を言っても、何をしても、結局さみしさだけはどうにもならない。喩えるなら、早朝の品川駅の新幹線乗り場近くのスターバックスに一人でいて、人通りのまばらな駅をぼんやり見下ろしているときのような感覚に近い。皮膚の存在が憎い。他人が他人でしかないのが苦しい。ボサノバを掛けて、さっき作ったトマトスープを飲んでいたら、冷房の風のせいでどんどんスープが冷めていった。夏なのに、寒い。嫌だ嫌だ。