今朝の雨はまるで春みたいだった。
服の袖口を優しく湿らせる。傘に柔らかくあたる。地面を静かに叩く。
帰り際に降ったのは秋を感じさせる冷たい雨。
傘は激しい音を立てる。容赦なく肌を打ち付ける水滴。車のライトや信号の光が濡れた地面に反射して、自分が今立っているその場所がここではないどこかのような気がした。涼しい風が季節の移ろいを感じさせた。
春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず。
この一節を思い出した。兼好法師の綴った言葉。
今は夏なのか秋なのか。ふとした瞬間に次の季節を感じさせる。寂しさを少しずつ少しずつ味わわせる悪質な手段だと思いました。
なんとも言えない寂寥感。また訪れるんですね、あの季節。
暮色に包まれた電車の座席で頬を撫でる夕陽。
金色に輝く落ち葉を踏みつける柔らかな感触。
葉の落ちた梢を揺らす冷たい風。
秋が来るんだよ。