匿名

日記

ティーラテ

今にも落ちてきそうな灰色の空に懐かしさを感じた。学校の小さな四角い窓からひとり見つめた空はいつも同じ、ちょうどこんな色をしていた。

進級直後の花曇り、高さの合わない椅子に座って足をぶらつかせながら桜の匂いを嗅いでいた朝。梅雨の日、夏休みを前に期待の満ちた喧騒から目を背けていつまでも聞いていた、早く生まれすぎた蝉の声。台風が来る日にはいつもより早く通り過ぎる重たい雲をぼんやり眺めた。土混じりの汚れた雪を踏みしめた日の空も灰色だった。

各駅停車に乗って、早い夕方を迎える住宅街を見下ろす。ぽつぽつと灯りのつき始める午後5時。夕食の支度をする母親も、風呂に入る女子高生も、隣に座っているおじさんも、あの街に住んでいる多くの人々も、皆等しく似たようなちっぽけな疎外感を抱えているのだろうか。

駅で買ったティーラテを流し込みながら安っぽい甘さに目を瞑る。電車の振動が椅子から体へ伝わって、ふわふわと心地の良い眠気。

昨日の月も雲に隠れて見えない中秋の名月も、きっと代わり映えしない不完全な円を描いているのだ。せめて同じ月を彼女がほんの一瞬でも見ていてくれたらと願った。