匿名

日記

マスク

何気なく当たった彼女の指先の熱がまだ、背中に残っている。きっとあなたは何も気にしていないのだろう。強く意識している私の感情なんて知る由もない。

冷たい雨の降るあの日、ふたり同じ傘の下で石段を降りた。鼓動がうるさいのは私だけで、雨音に感謝しながらふと寂しかった。同じ気持ちが、雲に隠れて見えない月を見つめる私を襲う。

風邪が長引いたと言い訳をして外さないでいるマスク。すぐに明らむ頬を隠しているだけだということにも気付いていないのだろうか。声が出ないと嘘をついて自分の気持ちを隠し続ける私。あなたの純粋な心配が痛い。

白い蛍光灯の光を浴びながら感情を言葉に変換する、私の指先は冷たいままだ。