匿名

日記

パソコン

世界史の勉強を切り上げて風呂に入った。脱衣所を出ると窓の外から人の声が聞こえた。夕方に開け放したのを閉め忘れていたのだろう。近寄ると案の定そうだった。火照った体に涼風が当たってなかなか気持ちが良い。少し覗くと住宅街はもう真っ暗で、網戸の向こうに微かに見えた人工的な灯りの点滅がこの街の広さを教えた。

深夜の蟋蟀の声の切なさを知る者が果たして何人いるのだろうか。

烏に食われる蝉が必死に鳴いているのを見たとき、ふと恋なんてくだらないと思った。生と性が等号で結ばれている気持ち悪さ。命の続く限り遺伝子を繋ごうとする生物と、寿命が切れるまで無機質に電気を流し続ける電球とが同じものにしか見えないのだ。

蟋蟀の声はまだ止まない。吹き込み続ける秋風を無視してパソコンを起動させ、ワードに年号を打ち込みながら、私は文字の羅列の奥にDNAの塩基配列を見る。