匿名

日記

プルースト効果のこと

雲ひとつないのに肌に触れる空気はひんやりしていて、その確かな「秋」にまだ慣れない。すれ違った人からふわりと香った石鹸のようなシャンプーのような、懐かしいなあと思ったら昔仲が良かった女の子の香りだった。何も意識せず挨拶のようにハグをし合い手を繋いだ頃。抱きしめた首筋からあの香りがしていたのを覚えている。つやつやしている髪は猫っ毛で、触れると手に馴染むような柔らかさだった。撫でると自分から頭を擦り付けてくるあの子は本物の猫みたいだった。

久々に再会した夏祭りの夜、私は「もし私が男だったら、きっとあなたに恋してた」と言った。あの子は笑って、それからどちらからともなく手を繋いだ。目の端に神輿が映って、提灯が足元を照らしていた。街路樹の百日紅の紅い花が落ちていた。