匿名

日記

贅沢な悪循環

「好き」ってどんな気持ちだっけ、と考え出したその瞬間から恋は終わり始めているのではないだろうか。

光源氏は御簾越しに垣間見た女の黒髪に恋をして歌を送り体の関係を持つ。恋って生殖のためだけの脳の機能なんだろうか。そんな単純な本能によって文学やら哲学やらが発展し、争いが起こった。

隣の席のあの子と目が合う瞬間のときめきだとか、指が触れて心臓が高鳴ることとか、私はきっといつかそういった感覚を教室から見た秋晴れの空とともに思い出すんだと思う。

恋は性欲と言う人もいるけれど、私にとって恋は寂しさだ。好きな人のことを想う気持ちと電車の窓から夕焼けを見たときの心の感じは根本が一緒だから。胸が締め付けられるなんてありきたりな表現だけど、本当にそうなのだ。引っかかれるようなむず痒い痛み。それが甘かったり苦かったりして、どちらにせよ癖になる。

他人を思う人の視線というのはその絶妙な柔らかさと激しさのバランスが独特で、他人であっても当事者であってもすぐに気づいてしまう。そういう視線に晒されることの快感も気持ち悪さも知っているから、誰かを好きになることに臆病になってしまう。好きになった人には何も知らずに幸せでいてほしい。だから好きになるのが怖い。贅沢な悪循環だなあと我ながら思う。