匿名

日記

好きだとか

恋人と高いところにのぼるのが好きだ。夜であればなお良い。地上の無数の光を眺めて、言葉にできないほど壮大で美しい光景を形作る人々を尊敬しつつ、いずれわたしたちもそちら側へ足を踏み入れるのだろうと、そしてこの世界も捨てたものではないと、恋人の体温を感じながら思うのである。恋人がどう思っているのかは知らない。知らないままでもいい。彼がわたしの隣にいればそれでいい。

恋人の撮るわたしが好きだ。頼んだわけでもないのにたくさんわたしの写真を撮ってくれる。わたしの感覚では決して可愛いと思えないわたしの写真までもを自慢げにひとに誇ってくれる。どの写真に写るわたしも、可愛いとは言えずともものすごく幸せそうなのは伝わってくる(実際ものすごく幸せなのだ)。我ながら、幸せそうな自分を見ると幸せな気分になれるので、何度も見返してしまう。恋人と出会う以前の写真を見返しても、こんなに幸せそうなわたしはどこにもいない。恋人とのデートのために服や靴やアクセサリーを新調したり、メイクを変えたり、髪や眉のサロンに行ったり、何より恋人によるたくさんの甘いささやきのシャワーを浴びているおかげか、以前より格段にいわゆる「かわいい」という語が似合うようになったような気すらする。

恋人と過ごす時間の全てが笑顔と幸福に満ちている。どの瞬間を切り取っても、もしわたしがバンドマンだったら歌にしていただろうし、カメラマンだったらフレームに収めていただろう。とはいえわたしはカメラマンでもなければバンドマンでもない。ほんの少しだけ気持ちを言葉にすることに慣れている人間でしかないので、こんなふうに数百文字の文章に幸福を切り取ってみたりしているのである。

わたしは、恋人の恋人になった後のわたしが好きだ。