匿名

日記

「君」のこと

今年は、服や靴やピアスや下着や、とにかく身につけるものをたくさん買った。どれも、その時その時で違う「君」に会うために買った。特定多数の「君」をなんとなく念頭に置いて、歌を詠んだりもした。

「君」はわたしを色んなところに連れていってくれた。バーとかフレンチレストランとか、水族館とか遊園地とか、二人きりの観覧車の中とかベッドの上とか。

「君」の属性はどれも違っていて、「君」が好むわたしの特性もそれぞれ違っていた。綺麗な言葉をつむぐ「君」も、機械オタクの「君」も、文学好きの「君」も、虫捕りにハマってる「君」もいた。勉強熱心な「君」もいたし、仕事に疲れた「君」もいたし、サボり癖のある「君」もいたし、人生に疲れた「君」もいた。たくさん食べるわたしを褒める「君」と、わたしの丁寧な仕草に微笑む「君」がいた。青い服を着たわたしに眩しい視線を投げかける「君」もいたし、わたしのロングスカートの裾が揺れるのを目で追う「君」もいた。

でも、どの「君」にも共通していることがあった。それは、どの「君」もわたしの人生を変えなかったということ。そして、どの「君」のために買った服も靴も、わたしを特別なところへは連れて行かなかった。

「君」の人数を数えるのが億劫になったくらいのとき、ふと気づいた。わたしをどこか特別なところへ連れていくことができるのは、「君」じゃなくて、彼でも彼女でもあの子でもあなたでもなくて、わたしだけだった。わたしの本当に行きたいところ、本当に好きなもの、本当に落ち着ける場所を知っているのは、わたししかいなかった。

「君」頼りのわたしは、今年に置いていくことに、決めた。